食べ過ぎボクサー〜リベンジ
一週間後。蒼井はリベンジのためにリングに立っていた。
その相手は勿論、彼女からチャンピオンを奪った寺田だった。
寺田にベルトを奪われてから、彼女は全てを奪われた。
観客はもはや彼女の応援をするものはいない。彼女はこのままでは終る事はできなかった。
ゴングが鳴る。
リングサイドに二人は、リング中央へとゆっくりと足を進める。
よく見ると、蒼井の白くて細い腹はまた、胃の辺りが膨れている。そう、彼女はわざとこうしたのである。一週間前に負けた時と同じ条件に体をしたのである。試合の一時間前に彼女はラーメンとカレーライスを無理やりに胃袋に詰め込んだ。
それで勝たないと彼女は気がすまなかった。そしてそのような状況でも、寺田に勝てる自信が彼女にはあった。
ただ、それでも腹が重いことは変わらない。ハンデは蒼井の方にあるし、相変わらずボディーの強くない彼女が一発でも寺田の拳が彼女の胃袋にめり込んだら以前のようになるだろう。
今日の寺田は最初からガードを下げて、蒼井の腹ばかり狙ってボディアッパーを繰り出してきた。おそらく、以前の試合で蒼井がボディーで早々と倒れることが彼女の頭に入っているからだろう。
だがそのわかりやすい攻撃。ここは仮にも元チャンピオンの蒼井には通用せずやすやすと彼女の拳をパーリングで払う。
そして、彼女の腹は殴ってくださいと言わんばかりにがら空きだった。
そこに容赦なく、蒼井はボディーブローを彼女の鳩尾に打つ。
「ウッ!」
彼女の鳩尾に蒼井の拳がめり込む。彼女は後ろに怯む。
蒼井はそれを見逃さなかった。蒼井は寺田の胃に向かってパンチを連打する。
前に予想した通りに、寺田の腹は柔らかった。殴るたびに、蒼井の拳には柔らかい胃袋が伸び縮みする感覚が伝わる。
そのパンチが寺田の胃に入るたびに、寺田は口から唾を出す。それが蒼井の顔に掛かる。
そしてとうとう、寺田は口から黄色い液を吐き出す。
「やった……」
蒼井はそれを見て、攻撃を少し緩めた。と、その瞬間、油断した彼女の腹に寺田の最後の力を振り絞ったボディーアッパーが炸裂する。
「ウッ!!」
蒼井はそれをまともに食らい、あまりの苦しさに膝を落としてその場に蹲る。
同時に、力尽きた寺田もリングポストに寄りかかるように倒れこむ。
胃袋が歪むような鈍い痛み。そしてまた、喉の奥から熱いものが込み上げてくる。
「う…ヴゥハハハ!!」
蒼井は耐えられず、胃液を吐き出す。
吐しゃ物を吐き出した後も胃の痙攣が止らない。
でも、ここで負けたら……蒼井の脳裏に以前の試合の味わったこともない屈辱が思い起こされる。
蒼井は渾身の力を振り絞って腹を抱えながらゆっくりと立ち上がる。その瞬間観客から声援が送られる。
それはもちろん、彼女への声援だった。その瞬間、蒼井のチャンピオンに返りざいた。
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